海外で子育てをしていると、子どもの言語について悩む場面は少なくありません。
特に、日本語を維持したいと考えている家庭にとっては、
・気づいたら日本語が減っている
と感じる瞬間があるのではないでしょうか。
我が家でも、日本語と韓国語が混ざることは日常的にありましたが、あるとき、ひとつの違和感に気づきました。
それは、「呼び方」も言語の一部ではないかということです。
息子は、私のことをずっと韓国語で「アッパ」と呼んでいました。
そして私自身も、「アッパはね」と自然に韓国語で自分を指していました。
当時は深く考えていませんでしたが、今振り返ると、この“呼び方”が言語に与える影響は思っていた以上に大きかったと感じています。
この記事では、ニュージーランド在住の日韓家庭でトリリンガル育児を現在進行形でおこなっている筆者(父親)が、子どもの父親の呼び方を韓国語の「アッパ」から日本語の「お父さん」に変えたことで起きた変化について、実体験ベースでお話しします。
子どもが父親を「アッパ」と呼んでいた頃の状況
息子が私のことを「アッパ」と呼んでいたのは、生まれてから6歳頃までです。
当時は、「お父さん」よりも「パパ」の方が呼びやすいように、「アッパ」も同じように言いやすいだろうという感覚で、特に深く考えずに使っていました。
私自身も、息子に話しかけるときは、
ろはアッパはね
といったように、自然に韓国語で自分を指していました。
また、家庭内では妻との会話が韓国語になることが多く、その流れで息子への声かけも韓国語になる場面が少なくありませんでした。
もちろん、息子と二人でいるときは日本語で会話することを意識していましたが、家族3人でいるときには、会話の中で日本語と韓国語が混ざる環境になっていたと思います。
そのため、息子にとっては母親との会話は韓国語、父親である私との会話は日本語が基本でありながらも、家庭内では韓国語が自然に混ざる状態でした。
さらに、父親である私は「アッパ」と韓国語で呼ばれていたため、会話の最初の一言が韓国語になり、そのまま韓国語でやり取りが続くことも少なくありませんでした。
当時は特に違和感を持つこともなく、「どちらの言葉も理解しているから問題ないだろう」と考えていました。
また、日本でも「パパ」と呼ぶ家庭が多いように、呼び方そのものはそこまで重要ではないだろう、という感覚もありました。
実際、息子が言葉を話し始めたばかりの頃は、日本語で話しかければ日本語で返してくれることもあり、深刻に考えることはありませんでした。
しかし、時間が経つにつれて、少しずつ韓国語で返すことが増えていきました。
最初のうちは気にならない程度でしたが、気づけば、日本語で話しかけても韓国語で返ってくることが当たり前になっていきました。
それでも当時は、
・そのうちバランスは取れるだろう
・まだ小さいから仕方ない
と、どこか楽観的に考えていた部分があったと思います。
また、この頃の自分を振り返ると、「子どもはそのうち自然に覚えるだろう」という受け身の気持ちもあったように思います。
特に大きな問題が起きているわけではないため、あえて何かを変える必要も感じていませんでした。
しかし実際には、その“何もしない状態”の中で、少しずつ言語のバランスが変わっていっていたのだと思います。
子どもの言語は、急に変わるものではなく、気づかないうちに少しずつ変化していくものだと、今では感じています。
だからこそ、当時のように違和感を持たずに過ごしてしまうことが、結果として言語の偏りにつながってしまうこともあるのだと思います。
今振り返ると、この“違和感を持たなかったこと”自体が、言語が混ざりやすい環境を作っていたのではないかと感じています。
特に、呼び方という日常的に繰り返される言葉が、無意識のうちに言語の流れを作っていた可能性は大きかったのかもしれません。
当時はそこまで意識できていませんでしたが、この環境が、後に呼び方を変えたときの大きな変化につながっていったのだと思います。
*日本語が弱くなる理由については、こちらの記事でもまとめています。


なぜ呼び方を変えようと思ったのか
きっかけは、本当に些細なものでした。
息子が日本語と韓国語を混ぜて話す様子を見ている中で、



日本語で話しているのに、呼び方だけ韓国語なのは少し不自然だな
と、ふと思ったのです。
それと同時に、これは単なる呼び方の問題ではなく、ひとつの“コードミキシング”なのではないか、と感じました。
それまで私は、言葉の内容ばかりに意識が向いていて、呼び方そのものを言語の一部として考えたことはありませんでした。
ただ、その瞬間に「試しに変えてみよう」と思い、特に深く考えることもなく、すぐに行動に移しました。
妻に話してみると、「いいんじゃない」という軽い反応で、特に反対されることもありませんでした。
息子に対しても、



これから“お父さん”って呼んでみようか
と伝えると、



うん、いいよ!
と、こちらもあっさり受け入れてくれました。
驚くほどあっさりとしたやり取りでしたが、今振り返ると、この小さな変化が、その後の言語の使い方に影響していったのだと思います。
「アッパ」から「お父さん」に変えて起きた変化
呼び方を「お父さん」に変えてからの変化は、思っていた以上に早く感じられました。
最初のうちは、それまでの習慣もあり、「アッパ」と呼んでしまうこともありましたが、「お父さん」という呼び方が自然に出るようになってからは、はっきりとした変化を感じるようになりました。
一番大きかったのは、呼びかけのあとに続く言葉です。
それまでは、「アッパ」と呼んだあとに、最初の単語や接続詞が韓国語になることが多くありました。
例えば、日本語で話しているつもりでも、会話の入り口が韓国語になることで、そのまま韓国語の流れに入ってしまう、ということがよくありました。
しかし、「お父さん」と呼ぶようになってからは、そのあとに続く言葉も自然と日本語になることが増えました。
呼びかけの一言が日本語になることで、そのまま日本語で会話が続きやすくなったのです。
また、このタイミングで、母親の呼び方についても韓国語の「オンマ」ではなく、日本語の「お母さん」と呼ぶように統一しました。
私自身も、息子と話すときは「お母さん」という呼び方を使うようにし、家庭内での呼び方を日本語に揃える形にしました。
その結果、日本語で会話を始める流れがより自然になり、一つの言葉の変化だけでなく、会話全体の言語の流れが整っていったように感じています。
実際、息子はよく



「お父さん、だけど〜」
という形で話し始めるようになりました。
文脈的には「だけど」ではない場面でも、この言い方が口癖のように出てくるため、「お父さん、あのね」と言えるように声をかけることもありますが、このあたりはまだ完全には直っていません。
それでも、「お父さん」と呼んでから日本語で話し始めるという流れができたことは、大きな変化だったと感じています。
実際に変化を感じたときは、「日本語を教えた」という感覚ではなく、「会話の流れが変わった」という感覚に近いものでした。
ほんの小さな違いではありますが、それまでとは明らかに会話の始まり方が変わり、結果として、会話全体の言語が変わっていくのを感じました。
以前は、呼びかけの段階で韓国語が入ることで、そのまま韓国語に引っ張られてしまうことが多かったのですが、呼び方を変えただけで、ここまで自然に言語の流れが変わるというのは、正直なところ予想していなかった変化でした。
なぜ呼び方で言語が変わると感じたのか
実際に呼び方を変えてみて感じたのは、最初に発する言葉が、その後の会話の言語を決める“スイッチ”のような役割をしているのではないか、ということです。
言葉を発するとき、たとえそれが呼びかけであっても、最初に日本語が出ることで、そのまま続く言葉も日本語が出やすくなるように感じました。
逆に、韓国語で呼びかけをすると、そのあとに続く言葉も韓国語になりやすく、そのまま韓国語で会話が進んでしまうことが多かったように思います。
子どもは、自分の思ったことをできるだけ早く伝えたいという気持ちが強いと思います。
そのため、最初に出た言葉の流れに乗って、そのまま話し続ける傾向があるのではないかと感じました。
またこれはあくまで私の感覚ですが、自分自身にも似たような経験があります。
例えば、妻と会話をするとき、特に意識していないと、妻が韓国語で話し始めればそのまま韓国語で返し、日本語で話しかけられれば日本語で返す、ということがよくあります。
つまり、最初に入ってきた言語に引っ張られる感覚です。
こうした経験から考えると、子どもにとっても「最初に発する言葉」が、そのまま言語の流れを決めるスイッチになっているのではないかと感じています。
もちろん、これがすべての原因だとは言い切れませんが、少なくともわが家では、呼び方を変えたことでその変化をはっきりと実感することができました。
*言語の切り替えについては、こちらの記事でもまとめています。


やってみて感じたメリットと注意点
実際に呼び方を変えてみて、感じたことはいくつかあります。
まず一番大きかったのは、やはり日本語が出てきやすくなったことです。
呼びかけが日本語になることで、そのまま会話の流れも日本語になりやすくなり、以前よりも自然に日本語でやり取りができる場面が増えたと感じています。
また、これは個人的な感覚ですが、息子から



お父さん
と日本語で呼ばれることに、嬉しさを感じるようになりました。
言語の問題だけでなく、親子の関係としても、日本語での呼びかけが持つ意味を改めて感じた部分でもあります。
そしてもう一つ感じたのは、この方法の取り入れやすさです。
特別な教材や準備は必要なく、
呼び方を変えるだけ
で実践できるため、
日常生活の中に無理なく取り入れることができます。
実際、我が家でも思いついたその日から始めることができ、親にとっても子どもにとっても、大きな負担になることはありませんでした。
言語教育というと、どうしても「何かを教えなければいけない」と感じがちですが、こうした小さな工夫でも、十分に変化を生み出すことができるのだと実感しています。
一方で、注意点として感じていることもあります。
わが家では、
日本語で会話をする時は「お父さん」と呼ぶ
という形で取り入れていますが、他の言語を使う場面まで無理に統一する必要はないと感じています。
例えば、韓国語や英語で会話をしているときにまで「お父さん」と呼ばせてしまうと、その言語の流れが日本語に引っ張られてしまう可能性もあるためです。
あくまで「日本語で話すときのスイッチ」として取り入れることで、無理なく続けやすく、効果も感じやすい方法だと思います。
まとめ:呼び方という小さな習慣が言語の流れを変える
今回、「アッパ」から「お父さん」へ呼び方を変えたことで、わが家では、日本語が出てきやすくなるという変化を実感しました。
特別な教材やトレーニングを取り入れたわけではなく、ただ“呼び方”という日常の一部を変えただけです。
それでも、会話の最初の一言が変わることで、その後に続く言葉の流れが変わるというのは、実際にやってみて初めて気づいたことでした。
言語を伸ばすというと、どうしても「何を教えるか」に目が向きがちですが、今回の経験から感じたのは、「会話の最初の一言」、つまり呼びかけの言葉がその後の言語の流れを決めることもあるということです。
もちろん、これはすべての家庭に当てはまるものではないかもしれません。
ただ、我が家では確かにその変化を感じることができました。
また家庭ごとに、そのきっかけは違ってもいいと思います。
大切なのは、無理に言語を教え込むことではなく、日常の中で自然に言葉が出てくる流れをつくることなのだと思います。
そして、その流れは、ほんの小さな習慣からでも変えることができます。
小さなきっかけで、日本語を引き出すことはできる。
今回の経験が、同じように悩んでいる方にとって、少しでも具体的なヒントになれば嬉しいです。










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